サステナビリティのためのアセットマネジメント

ISO 55001:2024の概要

社会全体が2050年ネットゼロ社会の実現を目指している中、アセットマネジメントの重要性もますます高まりつつあります。一般的な施設・設備であっても通常15年から20年を超えて使用されるケースが多いと見られ、建築物・構造物に至っては50年程度の使用期間を見込んでいるものが多いでしょう。ネットゼロに代表されるサステナビリティの視点を取り入れることなく、アセットへの投資やマネジメントを継続した場合、2050年にサステナビリティの観点から負の資産となってしまうことは間違いありません。そのような背景の中で、ISO 55001アセットマネジメントシステムの要求事項に関する規格の改定版が2024年7月に発行されています。

2024年版では、初版(2014年版)の基本的な考え方を踏襲しながら要求事項の明確化、整理が図られているといった印象です。要求事項の構成上は、明確な変更がいくつかありますが、基本的なアプローチ、考え方に変更はないと考えてよいでしょう。

2024年版における主な変更点については以下のように整理できます。

  • 意思決定に関する要求事項の明確化
  • SAMPに関する要求事項の明確化
  • リスクアセスメントに関する要求事項の明確化
  • 情報に関する要求事項の整理及び知識に関する要求事項の追加
  • 予測対応処置の範囲の拡大及び要求事項の明確化

意思決定に関する要求事項の明確化

ISO 55001:2014においても意思決定基準の決定に関する要求事項が含まれていましたが、長期にわたるアセットマネジメントの期間の中で、状況に応じた計画の見直しや修正が必要になると思われますが、このような場合に適用する意思決定の基準に関する状況事項が明確に整理され、箇条4.5に規定されています。この意思決定に関する要求事項は、フレームワーク、基準、並びに方法、プロセス及びツールの3つの細分箇条に分類されて詳細な要求事項が規定されています。

SAMP(戦略的アセットマネジメント)に関する要求事項の明確化

上記の、意思決定に関するフレームワークなどの要求事項を明確に規定したことに合わせて、SAMPの要求事項についても整理され、箇条6.2.1でSAMPに関する要求事項が明確にされています。

リスクアセスメントに関する要求事項の明確化

アセットマネジメントシステムの特徴の一つに、アセットマネジメント、アセットマネジメントシステム及びアセットに関するリスク及び機会の管理が求められているという点があります。2014年版では、このリスク管理に関する要求事項が少し読み取りにくい印象がありましたが、2024年版では、リスク及び機会の要求事項が整理されて、この点が解消されています。昨今の状況を捉えて整理するならば、組織のネットゼロに向けた事業方針と設定されたアセットマネジメント目標の不整合は、正にアセットマネジメントに関連するリスクの一つになり得るでしょう。

情報に関する要求事項の整理及び知識に関する要求事項の追加

ISO 55001:2014において、箇条7.5に規定されていた 情報に関する要求事項 もこのアセットマネジメントシステム規格の要求事項の特徴の一つとなっていました。先に出てきた意思決定を支援するためにも、信頼できる情報の蓄積及び提供は、重要な機能です。ISO 55001:2024では、知識に関する要求事項を明確にし、さらにデータと情報に関する要求事項を見直しことによって、規格の利用者にとって分かりやすく、明確な要求事項を規定しています。

予測対応処置の範囲の拡大及び要求事項の明確化

ISO 55001:2014で箇条10.2に規定されていた予測対応処置(Preventive action)の要求事項についても見直しが図られています。JISでは、ISO 9001やISO 14001で用いられてた従来の予防処置(Preventive action)との相違を明確にするために、予測対応処置と翻訳し、その要求事項を規定していました。 この予測対応処置は、アセットの機能を保全するために取られる処置であるとして、対象がアセットに限定されている感がありましたが、ISO 55001では、箇条10.3にPredictive action(ここでは予測的処置と翻訳しています。)の要求事項を規定して、アセットマネジメント、アセットマネジメントシステム、アセットに関連する意思決定の必要性を予測するためのプロセスに関する要求事項としています。

今回改定されたこのISO 55001:2024の要求事項に基づいて組織のアセットマネジメントシステムを見直すことで、組織のネットゼロ戦略をアセットマネジメントの観点からも協力に支援することが可能になると思われます。これまでの経緯から判断して、ISO 55001のJIS化まではもう少し時間を要するように思われますが、今回の規格の改定は全く新しい概念の導入によるものではなく、従来の要求事項や概念を整理し、分かりやすく構成するという範囲に留まっているように思われます。その意味では、既にJIS化されている、ISO 55002の最新版(ISO 55001:2018 JISは、2021年版)を利用して、ISO 55001の要求事項や概念が規格の意図した通りに構成され、機能しているかを見直していただくことで、今後発行されるJISの最新版(ISO 55001:2024に対応するJIS規格)への対応が容易になると思われます。例えば、このISO 55002:2018の附属書A アセットマネジメントにおける“価値”の考察の中で、ISO 55001で規定される意思決定とアセットがもたらす価値の関係についても下の図のように解説されています。