SUSTAINABILITY

ISO 50009(JIS Q 50009)活用ガイド

エネルギーマネジメントシステム — 複数の組織で共通のエネルギーマネジメントシステムを実施するための手引

サプライチェーンのGHG削減に、「共同で取り組む仕組み」という選択肢を。

SBT認定やCDP回答を通じて、サプライチェーン全体(Scope 3)でのCO2削減が求められる時代になりました。しかし、要請を受けるサプライヤーの多くは、単独で省エネ・脱炭素を進める人材も資金も十分ではありません。ISO 50009(JIS Q 50009:2023)は、複数の組織が「共通のエネルギーマネジメントシステム(EnMS)」を実施して、一社では実現できないエネルギーパフォーマンス改善を実現するための国際的な手引です。日本ではまだほとんど知られていませんが、サプライチェーンや工業団地の脱炭素を進める実務ツールとして、大きな可能性を秘めた規格です。

  • JIS Q 50009:2023(ISO 50009:2021)
  • ガイダンス規格(認証不要)
  • Scope 3・SBT対応

なぜ今、この規格に注目すべきか

大手企業の多くがSBT(Science Based Targets)認定を取得し、サプライヤーに対してCO2排出量の算定・削減を要請するようになりました。買い手側のScope 3排出量は、サプライヤー側のScope 1・2排出量そのものです。つまり、サプライチェーン全体の目標達成は、個々のサプライヤーの省エネ・脱炭素が進まなければ実現しません。

ところが現実には、「要請」と「実行力」の間に大きなギャップがあります。中小のサプライヤーには、エネルギー管理の専門人材がいない。省エネ投資の原資が乏しい。何から手を付ければよいかも分からない——。個社ごとにバラバラに取り組む限り、このギャップは埋まりません。

ISO 50009はまさにこの問題への答えです。発注側企業とサプライヤー群、あるいは工業団地や業界団体の仲間が「エネルギーマネジメントグループ(EnMG)」を組み、専門知識・データ・投資力を持ち寄って共通のEnMSを運用する。これにより、単独の組織では見つけられない、組織の境界をまたぐエネルギー削減の機会を掘り起こすことができます。認証を前提としないガイダンス規格(指針)なので、審査コストをかけずに今すぐ使い始められることも、実務上の大きな利点です。

ISO 50009とはどんな規格か

ISO 50009:2021は、複数の組織に共通のエネルギーマネジメントシステム(EnMS)を確立・実施・維持・改善するための指針を提供する規格で、2023年12月にJIS Q 50009:2023として日本産業規格になりました。単一組織向けのISO 50001(JIS Q 50001)をベースに、複数組織が共同でエネルギーマネジメントを進める際に特有の課題——合意形成、役割分担、データの共有と機密保持、目標の割り当て——に焦点を当てています。まず、基本となる用語を押さえましょう。

EnMG

エネルギーマネジメントグループ

共通のEnMSを実施する2つ以上の組織のグループ。資本関係は必須ではなく、サプライチェーンの取引先同士、工業団地の入居企業同士でも構成できます。

構成組織

グループを構成する各組織

EnMGに参加し、共通のEnMSの一部を実施する個々の組織。各社のトップマネジメントがリーダーシップとコミットメントを示すことが求められます。

EnMC

エネルギーマネジメント委員会

EnMGに代わって共通のEnMSを調整する委員会。共通の適用範囲・エネルギー方針・目標・データの取扱いルールを定め、活動全体の舵取りを担います。

共通のEnMS

共通のエネルギーマネジメントシステム

EnMCが調整し、2つ以上の組織が実施するEnMS。各社の自社EnMSと併存でき、共同で管理すると決めたエネルギーの使用を対象にします。

共通のEnMSの仕組み

構成組織 A例:発注企業
構成組織 B例:部品サプライヤー
構成組織 C例:物流会社
構成組織 N
↓ 各組織から委任者を選出 ↓
エネルギーマネジメント委員会(EnMC)共通の方針・目標・データルールを調整
共通のEnMSの適用範囲(共同で管理するエネルギーの使用)

各構成組織は自社のEnMSを持ちながら、共同で管理すると合意した範囲について共通のEnMSに参加します。参加・脱退の条件やデータの機密保持は、覚書(MOU)等で事前に取り決めます。

規格の構成 — ISO 50001と同じ流れで読める

規格の構成はISO 50001(JIS Q 50001:2019)に合わせられており、EnMSの経験がある組織ならすぐに読み解けます。各箇条の要点は次のとおりです。

  • 箇条4EnMGの状況グループと利害関係者の理解、共通のEnMSの適用範囲・境界の決定、覚書(MOU)・機密保持の取決め
  • 箇条5リーダーシップ各構成組織トップのコミットメント、EnMC(委員会)の設立と運営、共通のエネルギー方針の確立
  • 箇条6計画リスク・機会への取組み、目的とエネルギー目標の設定・割当て、共通のエネルギーレビュー、EnPI(指標)・EnB(ベースライン)、データ収集計画
  • 箇条7支援資源・力量・認識・コミュニケーション・文書化——研修や調達の共同実施によるコスト削減も
  • 箇条8運用著しいエネルギーの使用(SEU)に関する運用管理、設計・調達のグループ単位での最適化
  • 箇条9パフォーマンス評価監視・測定・分析、順守評価、構成組織間の相互内部監査、マネジメントレビュー
  • 箇条10改善不適合・是正処置の分担、グループ全体最適の視点での継続的改善

附属書A(参考)にはEnMCの役割・責任の一覧が、附属書B(参考)には地域・商業施設・工業団地・サプライチェーンでの実施事例が示されています。出典:JIS Q 50009:2023(ISO 50009:2021)に基づき当社作成。

どんなグループで使えるか

規格は、共通のEnMSを実施し得るグループの例として多様な形態を挙げています。ポイントは、資本関係がなくてもよいことです。

サプライチェーン

共通の顧客をもつサプライヤー群と発注企業。部品・半製品の輸送や工程配置をまたいだ最適化が可能に。

工業団地・地域

同じ団地・地区で活動する企業群。ユーティリティ(電気・蒸気・熱)の共同管理や共同エネルギー供給。

企業グループ

資本関係のあるグループ会社。グループ共通のEnPIによる横串管理と投資の最適配分。

フランチャイズ・チェーン

共通の供給者・店舗仕様をもつ加盟店のネットワーク。ベストプラクティスの横展開が効きやすい形態。

商業施設・テナント

ショッピングモールやオフィスビルのテナント群と施設所有者。共用部・空調の最適化。

業界団体・同業種

同一セクターの組織。ベンチマークの共有と専門家コストの分担で、中小でも専門知識にアクセス。

サプライチェーンのGHG削減に効く4つの理由

第一に、組織の境界をまたぐ削減機会を掘り起こせること。エネルギーの無駄は、しばしば組織と組織の「間」にあります。規格の事例には、2社に分かれていた製造工程を統合して稼働率を高め、グループ全体のエネルギー使用量を削減したケースや、部品輸送の共同化・原材料精製の工程配置見直しによってサプライチェーン全体の使用量を減らしたケースが示されています。一社単独のEnMSでは、こうした機会は原理的に見つけられません。

第二に、中小サプライヤーが専門知識・資金にアクセスできること。共通のエネルギーレビューや研修・コンサルティングをグループでまとめて実施すれば、コストを分担できます。規格は、大規模な構成組織が小規模な組織に技術的・財政的支援を提供することも想定しています。発注企業にとっては、サプライヤーへの「要請」を「共同の実行」に変える枠組みになります。

第三に、データ共有のルールがあらかじめ用意されていること。サプライチェーンでのCO2データ収集が進まない最大の理由は機密性への不安です。この規格は、覚書(MOU)・機密保持契約の作成、共有するデータ項目と利用目的の事前合意、第三者を介した集計など、機密を守りながら共通のEnPIを運用する方法を具体的に示しています。

第四に、認証不要で今すぐ始められること。ISO 50009は要求事項規格ではなく手引(ガイダンス)です。審査・認証の費用や準備は不要で、グループの実情に合わせて使える部分から採用できます。将来的に中核企業がISO 50001認証を目指す際の土台にもなります。

規格が示す実施事例(附属書Bより)

CASE 1|都市中心部・地域活動

地域暖房ネットワークに接続する10社

ゼネコン主導で10企業の事務所がEnMG・EnMCを設立し、床面積当たりのエネルギー使用量(MJ/m²)を共通のEnPIとして共通のEnMSを実施。中小規模のメンバーもEnMSにアクセスできるようになりました。

CASE 2|商業施設・テナント協働

16の独立レストランが入る複合施設

施設管理会社と協働でEnMCを設立し、ビル管理システムのデータに基づいて空調運用を最適化。共有エリアの使用量 −42%投資回収 3か月以内

CASE 3|工業団地(日本)

自動車メーカーと団地内企業のLLP

東北地方の工業団地で、多国籍自動車メーカーと関連会社・団地内企業が共同エネルギー供給の事業組合を設立し、団地全体の熱・電力供給を最適化。CO2排出量 −23%エネルギー使用量 −20%

CASE 4|サプライチェーン工程最適化

2社間の製造プロセス統合

同種の最終製品を作るX社・Y社が、重複していた工程を片方に統合。稼働率の向上により製品単位のエネルギー使用量が下がり、2社合計・グループ全体のEnPIが改善しました。

上記はJIS Q 50009:2023 附属書B(参考)に示された事例の要旨を、当社が要約したものです。

導入の標準的なステップ

  1. グループの組成と合意形成

    参加組織(構成組織)を決め、共同でエネルギーを管理する目的を共有。覚書(MOU)・機密保持契約で参加条件とデータの取扱いを取り決めます。

  2. EnMCの設立と共通エネルギー方針

    各組織の代表からなるエネルギーマネジメント委員会を設立し、共通のEnMSの適用範囲・境界と、グループとしてのエネルギー方針を定めます。

  3. 共通エネルギーレビューと目標設定

    グループ全体のエネルギー使用を分析して著しいエネルギーの使用(SEU)を特定。共通のEnPI・ベースラインを設定し、各組織の成熟度に応じてエネルギー目標を割り当てます。

  4. 行動計画の実行と運用管理

    境界をまたぐ改善策(共同調達、設備の共同利用、工程・輸送の最適化など)を含む行動計画を実行し、SEUを運用管理します。

  5. 評価と継続的改善

    EnPIの監視、構成組織間の相互内部監査、マネジメントレビューを通じて、グループ全体最適の視点で改善を続けます。CO2排出量の削減効果はGHG算定(ISO 14064等)と接続して見える化できます。

OUR SERVICE

IMSコンサルティングの ISO 50009 活用支援

当社は、ISO 50001をはじめとするエネルギー・環境マネジメントと、ISO 14064・14067・14068-1などのGHG算定規格の両方に精通したコンサルタントとして、ISO 50009を使ったサプライチェーン・地域の共同エネルギーマネジメントの立ち上げを支援します。まだ国内に活用事例の少ない規格だからこそ、早く動く企業・グループには差別化の機会があります。

勉強会・社内研修

ISO 50009の全体像と活用可能性を、貴社・貴グループの状況に即して解説します(オンライン可)。サプライヤー説明会での講演にも対応します。

EnMG立ち上げ支援

参加組織の検討、覚書(MOU)・機密保持の取決め、EnMC(委員会)の設計、共通エネルギー方針の策定までを伴走支援します。

共通エネルギーレビュー・目標設定支援

グループ全体のエネルギー使用の分析、共通EnPI・ベースラインの設計、構成組織への目標割当てを支援します。

GHG算定・SBT対応との接続

共同EnMSの成果をScope 1・2・3の排出量削減として算定・報告する仕組みづくり(ISO 14064等)まで、一貫して支援します。

サプライチェーンぐるみの省エネ・脱炭素、始めませんか

「サプライヤーにCO2削減を要請する立場」の方にも、「要請を受けて対応に悩む立場」の方にも、共同で取り組む枠組みをご提案できます。初回のご相談は無料です。

お問い合わせ・ご相談

提供:IMSコンサルティング株式会社